順天堂大学医学部
<小論文>問題集
2015年度入試以降の出題を掲載しました。それぞれに何を感じ、何を考えたのか?アタマをほぐしておきましょう。なお、以下は知財(知的財産権)を含むので、個人的な利用にとどめ、他者への転送や無断の転載を禁じします。
2024年
1976年のピュリツァー賞受賞作品の「人種統合教育」の写真を見て、2人の子どもの言葉として私たちへのメッセージを書きなさい。
面接への備えとして、入試直後の速報・解説をYouTubeにアップしました。
<参考>AIが生成した解答(2024年)
<AIの解答例>1次生成
「どうして、君の手を握ってあげたのかって? それは、どちらか一人だけがわかることじゃないからだよ。」
2人の子どもたちは、机の上で触れ合う手を通じて、多くの言葉を超えた「理解」を示しています。彼らの間にある肌の色の違いや背景は、それぞれが背負う物語を物語っている一方、その違いを越えたつながりの瞬間も映し出しています。
この写真が語るメッセージは、偏見や無知によって生じる分断を乗り越え、対話と共感を基盤とする関係を築くことの大切さです。「違い」を恐れるのではなく、それを知り、相手の視点に立つことが必要だということを教えてくれます。2人の子どもたちは、それぞれの小さな手で私たちに「共感」の力を示し、社会の壁を取り払う最初の一歩が「手を差し伸べること」だと気づかせてくれます。
このメッセージは、医師を目指す私たちにとっても重要な教訓を含んでいます。医療の現場では、患者一人ひとりの人生背景、文化、価値観が異なります。どれだけ専門的な知識や技術を磨いても、患者との関係を築けなければ、その医療は十分とはいえません。異なる立場の人の苦しみや喜びを理解するためには、まず自分が「手を差し出す」姿勢を持たなければならないのです。
順天堂大学医学部のアドミッション・ポリシーが示す「思いやり」や「協調性」は、この写真のメッセージとも響き合います。患者の立場を理解し、他者の苦悩を自分事として捉える力が、未来の医療を支える基盤となるでしょう。そして、このような共感に基づく行動が、国際社会や地域社会に貢献できる医師への成長を促します。
写真の子どもたちの行為は、単なる優しさ以上のものです。それは、異なる存在を受け入れ、お互いを認め合う人間関係の理想形を示しているのです。医療の場面でもこのような姿勢を持ち、患者に寄り添い続けることこそが、私たちが目指すべき医師像だと感じます。
<人間のコメント>
設問は「2人の子どもの言葉として」という解答条件を付けています。これを踏まえた解答に修正してください。なお、アドミッションポリシーには、言及しなくて構いません。
<AIの解答例>2次生成
(白人の子ども)
「ねえ、どうしてみんな、君と僕の違いばかりを気にするんだろう? 僕にとって、君はただの友達だよ。肌の色なんて、君と一緒に遊んだり話したりするのには何の関係もないよ。」
(黒人の子ども)
「僕たちが同じ教室にいることを変だって思う人もいるけど、僕はそうは思わない。手をつないでいると、僕たちが違うんじゃなくて、同じ人間だって気づくんだ。たとえみんながまだそう思ってなくても、僕たちなら変えられる気がするよ。」
この二人の子どもたちは、教室の中で出会い、互いに手を差し伸べ、共感を育んでいます。大人が築いた壁や偏見の存在に気づきつつも、それを乗り越える力は自分たちの手の中にあると信じているのです。彼らの言葉は、違いを超えて手を取り合うことで、世界が少しずつ変わっていく可能性を私たちに示しています。
<人間のコメント>
800字という制限字数を考えると、明らかに短すぎます。二人の子どもの言葉も優等生の模範解答のようで面白みがありません。写真をよく見ると二人の視線が合っていません。そこには握手をすることに対する戸惑いをはじめとする複雑な思いを読み取れます。握手をすることへの戸惑いを含みながら、新たな世界に踏み出そうとする...そんな人間の複雑さを盛り込んだ二人の子どもの言葉になりませんか?さらに、それを現代に生きる私たちに対するメッセージに展開してほしいのですが...
<解答例C>3次生成
(白人の子ども)
「君の手に触れると、ちょっと不思議な気持ちになる。僕たちは一緒に教室にいるけど、周りの大人たちはこのことをどう思ってるんだろう?正直、僕自身も少し戸惑ってるんだ。でも、こうやって手を差し出してみると、何かが変わるかもしれない。昨日までは知らなかった『君』を、これからは友達として知れるかもしれないって思ってさ。」
(黒人の子ども)
「僕も少し怖いんだ。握手をするのが正しいことなのか、正直わからない。でも、もしここで君の手を取らなかったら、この先ずっと僕たちはお互いを知らないままになっちゃうよね。怖いのは変わらないけど、握手をしないことで残る壁の方がもっと怖い気がするんだ。だから今、君の手を握ってみるよ。」
二人からのメッセージ
この写真の中の二人は、違いへの戸惑いを抱えながらも、一歩踏み出そうとしています。握手をすることがただの「仲直り」や「理解」の象徴ではなく、そこに生まれる不安や疑念も含んでいることに気づかせてくれます。人間関係や社会の変化には、単純な答えはなく、必ずしも全員が心から安心できるわけではありません。それでも、彼らの姿勢は私たちに教えてくれます――不安があるからこそ、手を伸ばし、対話を始めることが必要なのだ、と。
現代の社会でも、私たちは様々な違いや偏見に直面しています。文化、性別、価値観の違いに対する不安や対立が生じるのは自然なことです。しかし、二人の子どもたちが示すように、その不安を抱えたままでも、まずは手を差し伸べることから変化は始まります。相手の全てを理解するのは難しいかもしれない。それでも、自分と異なる存在に向き合い、歩み寄ろうとすることでしか、未来への道は開けないのです。今の私たちが問われているのも、この姿勢ではないでしょうか。
<解答例に対するAIの想定質問>
1. 握手への「不安」について
• 「あなたは握手に不安を感じながらも手を差し伸べることを評価していますが、具体的にどのような場面で、その『不安』が重要になると考えますか?」
• 「握手に対する不安や戸惑いがあっても、一歩踏み出すことに価値を見出している理由を、あなたの経験に基づいて教えてください。」
2. 異なる価値観との向き合い方
• 「小論文では、違いを乗り越える姿勢を評価していますが、医師として異なる価値観や文化背景を持つ患者と向き合う際に、どのように対応すべきだと考えますか?」
• 「異なる文化や信念を持つ患者が治療を拒否した場合、あなたならどう対応しますか?どのように相手と対話を続けるでしょうか?」
3. 自分と異なる相手への理解
• 「あなたは、自分と異なる存在に手を差し伸べることを重視していますが、これまでの経験で異なる価値観の人とどのように関わってきましたか?」
• 「医師としての将来を見据えたとき、患者や家族、同僚との関係で“異なる意見”を受け入れる姿勢をどう築いていくべきだと思いますか?」
4. 「対話を始めること」の重要性について
• 「小論文では、まずは対話を始めることが大切と書かれていますが、対話を始める際にどのような準備が必要だと思いますか?」
• 「医療の現場で、対話が難しい状況に直面した際、あなたはどのようにその対話を継続しようとしますか?」
5. 未来への道を開く姿勢について
• 「最後の部分で『未来への道を開く』と述べていますが、あなたにとって未来を開くための具体的な行動とは何ですか?」
• 「医療現場で未来を拓く姿勢が求められる場面を挙げ、その際に何が重要だと思うか教えてください。」
2023年
特攻隊員の家族への手紙を自分で書き、次に自分が手紙を書いた時の気持ちを800字以内で述べなさい。
2022年
2億5000万年後の超大陸パンゲア・プロキシマの図である。この大陸で広がっている世界はどのようなものだと思うか。
2021年
これはゴーストタウンとなった街の港にいたアザラシの写真である。あなたがアザラシなら何を思うか。800字以内で書け。
2020年
Norman RockwellのThe Runawayです。感じたことを述べなさい。
2019年
下記「こどものいた街」の写真は耳が聞こえない筆者(井上孝治)が撮影した写真である。写真を見て思うことを述べなさい。
<参考>解答に対するAIのコメント
<人間の解答例>
設問は作者を「耳が聞こえない」と紹介しているが、彼は「目が見える」。だから、このような写真を撮ったのだ。「耳が聞こえない」と言われると、誰もが「できない」ことに注目しすぎてしまい、「かわいそうだ」という一方的に思い込んでしまう。そんな一般的な反応に対して、この写真は「できる」ことへの気づきを私たちに提供してくれる。
「できない」ことではなく、「できる」ことに注目することは、人の可能性や社会の多様性を拓いていく。他者からの「できない」という眼差しは、「できない」ことがある人を悩ませ、苦しめる。そして、自己肯定感が低下し、自分の人生に意味を見出せず、死にたくなってしまう人もいるだろう。しかし、他者が「できる」ことに気づき、それを応援してくれれば、そこに自分らしさや人生の意味を見出し、「できない」ことの困難さと向き合える。
そもそも、すべての人が同じことを同じように「できる」わけではない。「できる」こともあるし、「できない」ことをもある。それを認め合って、それぞれ生の意味をたたえ合い・支え合うことで、社会の多様性は拓かれる。きっと、そういう社会であれば、誰にとっても生きやすいはずだ。ところが現実の社会は、「できる」「できない」の間に明確な線を引き、前者だけを評価し、後者をさげすむ。しかし、パラリンピックの競技者のように「できない」ことを「できる」ように変えることはできる。そして、筆者のように「できる」ことに磨きをかけ、それを生活や人生の糧とすることもできる。
このように、できる/できないを超えるには本人の心構えだけでなく、周囲の「支え」が必要だ。パラリンピックの「支え」になったのは義手、義足等の技術であり、この写真の作者はカメラという道具であった。こうしたモノ以上に大切なのは、「できる」を懸命に支えようとする人たちの「心映え」だったと私は思う。(779字)
<AIのコメント>
発想の転換が効果的:筆者が耳が聞こえないことに注目しつつ、「目が見える」ことで写真を撮ることができたという発想の転換が効果的です。「できない」ことではなく、「できる」ことに目を向けることの重要性が強調されており、多様性のある社会に向けた視点がしっかり示されています。この構成により、単に「かわいそう」と捉えられる視点を超え、井上孝治さんが持つ能力を称賛する姿勢が伝わってきます。
社会の多様性への提言:解答は、個人の能力だけでなく、社会が「できない」ことをどう捉えるかという視点を含んでおり、深みが増しています。社会が「できる」ことを評価し、「できない」ことにさげすむ現実の課題を指摘しつつ、相互に認め合い支え合うことの重要性を述べており、多様性に基づく共生社会を理想として掲げています。この点は、面接官や採点者に良い印象を与えるでしょう。
支えの必要性の具体例が良い:パラリンピックの競技者や義手、義足の例、そしてカメラという道具が「できる」ことを支えるものとして紹介されており、具体的でわかりやすい説明がされています。読者に理解しやすく、「支え」や「心映え」といった抽象的な概念も、説得力を持って伝えられています。
改善点:自身の意見や体験の追加
現在の解答は抽象的な論理に優れていますが、より個人的な意見や体験があるとさらに良くなるかもしれません。例えば、自分自身や周囲の人が「できる」「できない」に苦しんだ経験、あるいは「できる」を支えられた経験を追加することで、さらに一層の共感を呼ぶ解答になるでしょう。
視点の一貫性が保たれている:解答全体を通して、筆者やパラリンピック競技者などに対する尊敬の念が一貫しており、軸がぶれていません。このように一貫性を保つことで、解答全体にまとまりがあり、テーマが明確に伝わります。
2018年
フランスの写真家アンリ・カルティエ=ブレッソンの1969年に発表された写真集「フランス万歳」の中の一枚です。あなたがこの写真の子どもたちの一人であったらどう思いますか。
2017年
戦場で、助けた子猫にミルクを与える兵士の写真です。あなたがこの子猫だとして、今の気持ちを書いてください。
2016年
Vivian Maierが撮った1950年代のアメリカの写真です。彼の前にはどのような世界が広がっていると思いますか。800字以内で述べなさい。
2014年
この写真は、写真家HABU氏の「自分の物語」という写真集からの一枚です。「心の秘境」という題がついています。あなたは、この写真を見て、どのように思うか800字以内で述べなさい。
AIを活用した学修ー解答へのコメント+想定質問
以下は、上記の2014年出題に対する受験生のサンプル答案です。なお、使用について本人の同意を取得済みです。これに対するコメントや想定質問をAIに生成させました。なお、AIによる記述は1次生成データで、細部のレビューをしていないので正確性や妥当性に課題が残る場合もあります。慎重に読み進めてください。
<サンプル答案>
この写真は人間の心の中を写し出しているように思える。明るいほうは普段生きていく上で家族や友人に見せる姿であり、暗い方は誰しもがもつ人には見せない心の闇の部分である。ここで注目するのは暗い方つまり心の闇のほうである。
人間は日々悩んだり、考えながら生きている。そして心の闇が大きくなりすぎると引きこもりやうつ病になってしまう。これらを回避するためには自分一人ではなく友人や家族や他の人間に協力してもらう必要がある。まさにこの写真の「月」が闇から救ってくれる友人や家族などを表している。この「月」の光を利用するか、利用しないかは自分次第であり、「月」は自ら助けにはこない。自分から光を求めて動き出さなければならない。つまり一人で悩んでいてどうしようもない時は他人に自分から相談しろということだ。
だが、相談する相手や心の闇を打ち明ける人はいないと言い出す人もいるのではないだろうか。この考えは間違っている。なぜならば、今まで生きていく上でたった一人で生きてきたわけではない。必ず近くに人がいたはずだ。そういう人は自分から「月」の光を探そうとせずにいる。一度落ち着いて探してみれば必ず見つかるはずだ。そしてまた、「月」の存在は生きていく上で必要不可欠であり大切にしなければならない。
結局この写真を見て思ったことは、人間の持つ心の闇から救ってくれるのは他の人間であり人とのつながりである。人間は一人では生きていくことができない。だからこそ、人とのつながりは何よりも大切であり、人とのつながりで人は生きていけるということだ。
<コメント>
この解答は、写真に対して独自の視点を持ち、写真から「心の闇」と「人とのつながり」の重要性を見出している点が優れています。また、「月の光」を他者からの支援や助けの象徴として解釈し、自ら光を求める姿勢を示すという具体的なメッセージが込められている点も説得力があります。
改善点を挙げるとすれば、構成と論理の明確さです。以下のような工夫が考えられます。
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冒頭での導入部を明確にする: 解答の冒頭で「この写真は心の中を写し出しているように思える」という主張をしていますが、「明るい部分」と「暗い部分」が何を表すのか、最初に簡潔に示すとより分かりやすくなります。例えば、「この写真は人間の心を象徴しており、光と闇が心の様々な側面を表しているように見える」といった具体的な導入が効果的です。
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具体例や深堀り: 「心の闇」が大きくなると引きこもりやうつ病になるという表現は、やや一般的すぎるため、もう少し詳しく「どのような状況や心情」がそうした状態に結びつくかを述べると、読み手の共感を得やすくなります。また、「月の光」を活用するには具体的にどうすればよいのか、例えば「日常の中での小さな行動」や「人に頼ることの具体的な方法」について触れると説得力が増します。
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結論を簡潔にまとめる: 最後に「人とのつながりが重要である」と結論付けていますが、その理由を再度簡潔にまとめると、論旨がより明確になります。例えば、「この写真が示すように、心の闇に立ち向かうためには、他者とのつながりが重要であり、それこそが人間が生きていく力の源となる」というようにまとめるとよいでしょう。
全体として、考え方や表現に独自性があり、特に「月の光」を他者からの支援として解釈する点がユニークで深い印象を与える解答です。
<面接試験での想定質問>
順天堂大学医学部の面接試験で、今回の小論文の解答に対して面接官として以下のような質問をすることが考えられます。
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「心の闇」を大きくしないために、あなたが日常生活で意識していることはありますか?
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「心の闇」について述べていますが、日常生活で自分を保つために心がけている具体的な行動や考えを聞くことで、自己管理やセルフケアに対する意識を確認します。
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「月の光」にあたる存在として、具体的にどのような人や経験を思い浮かべていますか?
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回答で触れられている「月の光」に関して、具体的な経験や人のエピソードを掘り下げることで、どのように人間関係を捉えているかを探ります。
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「一人で悩んでどうしようもない時には他人に相談すべき」と述べていますが、相談しにくいと感じた場合、どのように乗り越える工夫があると思いますか?
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他者に相談することの大切さについて述べていますが、相談しづらいときの対応策を考えさせることで、柔軟な対応力や実行力を確認します。
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人とのつながりを大切にするために、医師としてどのように患者や同僚と接したいと思いますか?
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医学部志望であることを踏まえ、人とのつながりの重要性を医師としてどのように活かしたいかを具体的に聞くことで、医療における人間関係の考え方を掘り下げます。
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あなたにとって「心の闇」とは具体的にどのような状態や感情を指しますか?また、それをどう理解し、対応していくべきだと考えますか?
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「心の闇」という抽象的な概念について深く考えさせる質問です。自分なりの定義や理解を示させることで、問題意識の持ち方や自己理解の深さを探ります。
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これらの質問により、解答内容の背景や自身の価値観、他者との関わり方について理解を深めることができるでしょう。